相続税の申告は自分でできる?


©新潟県新潟市神田公認会計士・税理士事務所
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端的に結論を言えば、相続税の申告は税理士に依頼せず、自分で行うことができます。

本来、相続税は「納税者自身が適正に申告・納税する」ことが前提の制度です。税務署の手引き等を参考に、税理士に依頼せず、自分で申告することは、もちろん選択肢の1つです。では次に税理士に依頼せず、自分で申告を行う場合のメリット・デメリットについて考えてみましょう。

 

Ⅰ相続税の申告を自分で行う場合のメリット

 

相続税の申告を自分で行うメリットは、何といっても税理士報酬の削減です。申告の手引きや市販の書籍、インターネットの情報、税務署への相談などを利用すれば、税理士報酬と比較して非常に低いコストで、一定程度の申告書を完成させることができます。しかし下記のようなデメリットがあるため、多くの方が相続税の申告を税理士に依頼しているのが実状です。

 

Ⅱ相続税の申告を自分で行う場合のデメリット

 

1どんな場合でも相続税に関する知識は必要となる

 

相続税の申告を自分で行いたいとお考えの方の多くが、分からなければ最終的に税務署に聞きに行けばいいとの認識ですが、それは大きな誤りです。

 

まず、相続税に関する知識がほとんどない場合には、税務署へ相談に行ったとしても、的確に質問し、その回答を得ることはできません。

 

最低限相続税の申告のしかた(税務署発行の100ページ程の手引き)」を入手し、事前に熟読した上で、自分の申告に該当する箇所を把握し、それに関連する法令通達や市販の書籍を参照し理解しなければ、質問するポイントも分かりません。さらには揃えるべき資料も膨大にあるため、税務署に相談に行く回数はその度ごとに増えていきます。

 

例えば不動産を評価する場合には、複数の資料が必要となります。法務局などに行けば簡単に取れる書類もありますが、その不動産の所在によっては、建築基準法上どのような道に接道しているかや都市計画地域の検討の有無など、市(区)役所などの自治体の担当課でしか分からない情報もあります。これらの情報はそもそも税務署が保有していませんので、自分で調べてくるよう指導されます。

 

実際に自分で動くとすぐ分かりますが、これらの書類を全く知識がないまま適切に揃えることは簡単ではありません。

 

2税務署での相談は万能ではない

 

税務署での相談は、申告書の書き方や相続税の計算方法について、一般的な指導は行いますが税額の計算は納税者自身が行い、申告書を完成させることになります。

 

納税者に正しい知識がない場合には、税務署に対して質問すべき内容が不完全だったり、提供すべき情報に齟齬が生じ、税務署が誤った指導をすることもあります。

 

この場合に税務署の指導に従って申告したから大丈夫と納税者は考えるかもしれません。しかし結果として、後日税務署より修正申告を求められます。

 

なぜなら相続税は「納税者自身が適正に申告・納税する」ことが前提の制度だからです。税務署の指導に従ったのにやや冷たい対応と思われるかもしれませんが、正しい知識により適切な質問をしなければ、正確な回答は得られません。その責任は納税者側が負うことになるのです。

 

相続税は、毎年の所得税の確定申告などと違い一定の書類(源泉徴収票、控除証明書など)を揃えれば簡単に計算できる訳ではなく、仮に税理士に依頼した場合でも申告書の作成には数カ月程度かかります。

 

これを税務署の数回の無料相談で全てを誤りなく行うことは、納税者側にかなり正確で高度な知識が要求されます。こうした知識を持った納税者は非常に稀であるため、多くの方が相続税の申告を税理士に依頼しています。

 

3あなたの間違った申告が、子や孫への大きな負担に

 

もしあなたが税務署への無料相談によって、その指導の通りに申告書を完成させたとします。しかも各種の税額軽減措置や特例等を利用し、相続税が少額に抑えられた又は税額がゼロになったとしましょう。税理士報酬もかからなかった上に、税額も少なく賢い申告だったと考えるかもしれません。しかし、相続税はそう単純ではありません。

 

リンク先(配偶者の税額軽減は相続税の節税?)にも記載しておりますが、税額軽減措置を使うことにより、逆に1,000万円も多く相続税を払うことになる場合があります。

 

軽減措置を使ったのになぜ?とお考えになることでしょう。しかし実は、自分で相続税の申告を行った場合にこのような失敗事例は数多くあり、このケース以外にも様々な特例の選択ミスが存在します。

 

税務署も決して悪意がある訳ではありません。これは納税者の不正確な知識により、税額軽減措置や特例を使えるなら使った方がトクと考え、それらの利用を税務署で相談してしまうため、納税者の意向に従い税務署も指導することになるのです。

 

もちろん税額軽減措置や特例を利用した方が節税できる場合もありますが、必ずしも有利とは限りません。それらを判断するためには、いくつもの想定をしながら精緻なシミュレーションが必要となり、その結果としてベストな申告が導き出せます。これらのシミュレーションを税務署に依頼することはもちろんできません。

 

あなたの間違った申告で多額の納税負担を背負うのはあなた自身ではなく、子や孫です。潤沢な資金があれば別ですが、主な相続財産が不動産の場合にそれを売却せざるを得なくなる、または市況次第では売却すら困難なことも多々あります。

 

相続税は現金一括納付が原則ですので、子や孫の負担は計り知れないでしょう。その原因が、正しい知識を持たず税務署への無料相談で済ませてしまったあなたの申告よるものだとしたら、子や孫はどのように考えるでしょうか。自分で申告することにより、知らないうちに子や孫の世代に大きな負担を背負わせる危険性があることは、十分に認識すべきです。